本研究は、骨吸収におけるプロトンポンプV-ATPaseの役割に注目し、酸性環境の形成機構を分子レベルで解明することを目的としている。これまでに、破骨細胞で機能するV-ATPaseは、イソフォームの組合せがこの細胞に特異的であることを明らかにした。こうしたV-ATPaseの多様性が、多彩な酸性環境を形成していると考えられる。 平成22年度は、この酵素の回転触媒機構を一分子で観察する実験系を構築した。V-ATPaseはATPを加水分解する触媒部分(Vo)とプロトンを輸送する部分(V1)からなっており、触媒活性とプロトンの輸送はサブユニット間の相対的な回転により共役している。V-ATPaseの構造の違いによる回転触媒機構の差異を明らかにすることは、多様な酸性環境を制御する機構の解明につながる。まず、酵母のV-ATPaseを用い、ヒスチジンタグを介してプロトン輸送部分をガラス面に固定し、この部分に対して相対的に回転するGサブユニットにプローブとして直径100nmの金ビーズを結合させて、回転を観察する系を確立した。この実験系を用いて、V-ATPaseの回転速度は毎秒200回転であり、類似の構造を持つATP合成酵素(F-ATPase)と比べて半分程度であることを明らかにした。また、F-ATPaseと同様に、すべての分子が同じ速度で回転し続けているのではなく、秒単位で続く休止と連続回転を繰り返していることがわかった。さらに、F-ATPaseについても解析を進め、触媒ドメインの構造安定化や、βとγサブユニットの相互作用が、回転を駆動するのに重要であることを示した。今後は、V-ATPaseの作動機構について、F-ATPaseと比較しつつ、詳細に解析を進める。
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