本研究は、骨吸収におけるプロトンポンプV-ATPaseの役割と、酵母V-ATPaseの作動機構に注目し、この酵素の酸性環境形成機構の解明を目指している。 破骨細胞では前駆細胞からの分化に伴いリソソームが形質膜に移動し、骨吸収に必要なプロテアーゼ等を分泌する。我々は、分化に伴い発現が増加するa3イソフォームを持つV-ATPaseがリソソームに局在することを見出している。一方、a3遺伝子を欠損したマウスの前駆細胞は、野生型同様に破骨細胞に分化するが、骨吸収活性が低い。今回我々は、a3に特異的な抗体を用いた免疫染色法により、a3遺伝子欠損マウスの破骨細胞では、リソソームが形質膜へ移動しないことを明らかにした。すなわち、a3イソフォームは、リソソームの形質膜への移動に必須である。a3遺伝子欠損マウスでは、リソソームが形質膜へ輸送されず、リソソームの持つプロテアーゼの分泌や細胞外の酸性化が起きないことにより、骨吸収活性が低下したと考えられる。 また我々は、酵母のEサブユニットをマウスのサブユニットに置換したキメラV-ATPaseの解析により、グルコースによるVoV1_の会合にこのサブユニットが関与することを示している。23年度は、Eサブユニットに変異を導入し、会合状態の調節に重要なアミノ酸を同定した。V-ATPaseのプロトン輸送は、サブユニット間の相対的な回転を介して、ATPの加水分解と共役している。会合状態の変化が回転に及ぼす影響を酵素-分子の観察で検討するために、キメラV-ATPaseの一分子観察系の確立に取り組んでいる。 このように、細胞レベルと酵素-分子のレベル、双方からの解析たより、V-ATPaseによる酸性環境の形成機構を解明できると考えている。
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