研究概要 |
ヒトを含めた生体内に、D型アミノ酸を機能分子とする新規なバイオシステムが存在するが、機能発現の分子論的解析は未だ十分とは言えない。我々は,実験的解析が容易なモデル生物である線虫を用いて、D型アミノ酸の機能解析を進めている。すなわち、D型アミノ酸を立体特異的に分解する酵素の欠損変異体を取得し、その形質の解析を行うことでD型アミノ酸の機能を明らかにしようとするものである。これまでの我々の解析結果から明らかになったように、線虫は、中性および塩基性D-アミノ酸を分解する1種類の酵素DAOと酸性D-アミノ酸を分解する3種類の酵素DDO(DDO-1~3)を有している。平成23年度は、DAOおよびDDO-1~3遺伝子に欠失のある4種類の変異株を用いて、線虫の基礎的形質と行動について解析を行った。以下にその結果をまとめた。 1)DDO-3変異株は成長速度が遅れており、結果として寿命の延長が生じていた。 2)25℃の培養においてすべての変異株で産卵数と孵化率の低下が認められ、その原因として、DAOおよびDDO-3変異株では卵子の数の減少、DDO-1およびDDO-2変異株では卵子の数と質の低下が示唆された。さらに野生株との交配実験で、DDO-1~3の変異株から卵子が提供された場合に艀化率が低下したことから、DDO-1~3が卵子を提供する母体、あるいは卵子で発現していることが重要であると考えられた。一方、DAO変異株と野生株との交配実験では孵化率に影響が見られなかったことから、DAOは受精後の胚で発現していることが重要であると考えられた。 3)DDO-1変異株では排泄の周期が有意に延長していた。また、一定時間あたりに身体を屈曲させる回数(運動量)は、DDO-3変異株で有意に上昇していたことから、神経伝達に影響が生じていることが示唆された。
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