研究課題
動脈硬化症の発症要因の一つである酸化LDLの生成機構は未だ明らかではない。我々は、動脈硬化巣進展に先立って血漿酸化LDLの亢進が起こること、大動脈中膜において酸化ストレスが亢進していることを見出している。そこで、動脈硬化発症のごく初期に注目し、血管壁組織の変化について検討した。10週齢のapoEノックアウトマウスの大動脈を起始部から腎動脈との分岐部付近まで摘出し、外膜を除去した。動脈硬化好発部位である起始部および弓部(上部大動脈と呼ぶ)と、初期には病巣形成がほとんど見られない胸部および腹部大動脈部位(下部大動脈と呼ぶ)に分けて、ホモジェネートを調製し、二次元電気泳動によるタンパク質プロファイルを比較した。二次元電気泳動で、100個以上のスポットのタンパク質をMALDI-TOF MSにより同定した。両部分で発現量に差の見られたスポットについて注目したところ、以下の興味あるタンパク質を見出すことができた。 (1)抗酸化酵素の一つであるペルオキシレドキシン2の発現は、上部大動脈<下部大動脈であり、組織抗酸化能の低下が動脈硬化の発症に先立って起こっている可能性が示唆された。 (2)平滑筋細胞の分化マーカーであるtransgelin (SM22)の発現が上部大動脈<下部大動脈であり、好発部の平滑筋細胞の脱分化傾向が高いことが予想された。 (3)接着斑タンパク質のlipoma preferred partner (LPP)の発現は上部大動脈>下部大動脈であり、好発部位での細胞遊走性が高まっている可能性が示唆された。10週齢の大動脈では起始部にわずかに粥状硬化巣ができているものの程度で下部大動脈ではほとんど見られておらず、これらのタンパク質発現変化が病巣形成に先立って起こっている発症余韻である可能性について、さらに検討を進めたい。
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