我々のグループはリゾリン脂質の一つであるリゾホスファチジルイノシトール(LPI)が、カンナビノイド受容体の一つとして報告されたオーファンGPCRのGPR55にアゴニストとして作用することを発見した。LPIの構造活性相関を検討した結果、グリセロールのsn-2位にアラキドン酸を持つLPI(2-arachinonyl-sn-glycero-3-phosphoinositol)が最も活性が強いことを見いだした。ホスファチジルイノシトール(PI)の構成脂肪酸は特徴的で、sn-1位にステアリン酸、sn-2位にアラキドン酸を持つものが多く存在する。sn-2位にアラキドン酸を持つLPIは、PIがホスホリパーゼA1(PLA1)の作用を受けたときに生じることが考えられる。しかし、PLA1に関する研究は非常に限られており、また、PIを基質とするPLA1はほとんど知られていない。細胞内型PLA1としては、DDHD domain containing 1 (DDHD1)などが、NCBIデータベースに登録されている。DDHD1は、ホスファチジン酸(PA)-preferential PLA1 (PA-PLA1)として同定された酵素であるが、その真の生理的な意義は明らかになっていない。本研究は、LPIの産生に関与するPLA1の解明の手掛かりを得るべく、DDHD1の性状・機能を再評価した。 DDHD1発現プラスミドをHEK293細胞に導入し安定発現細胞(DDHD1/HEK293)を樹立した。DDHD1/HEK293細胞を[^3H]アラキドン酸で標識した後、イオノマイシンで刺激すると、[^3H]LPIの産生が観察された。刺激をしない場合は、[^3H]LPIの産生はほとんど観察されないことより、DDHD1は刺激に応答した[^3H]LPIの産生に関与することが示された。細胞をメチルアラキドノイルフルオロリン酸(MAFP)で処理すると[^3H]LPIの産生は阻害された。MAFPに感受性の酵素、すなわちDDHD1が関与することが考えられた。また、産生されたLPIの45%が細胞外に放出された。DDHD1/HEK293細胞をイオノマイシンで刺激すると、ホスホリパーゼD(PLD)が活性化された。DDHD1/HEK293細胞をイオノマイシンで刺激する際に、1%のn-ブタノールで前処理すると、[^3H]LPIの産生は著しく阻害された。ter-ブタノールの前処理はほとんど影響を与えなかったことより、n-ブタノールの効果は、有機溶媒の非特異的な作用ではなく、PLDによるホスファチジン酸(PA)の産生の阻害によることが示された。DDHD1の活性化にPLD-PAが関与することが示唆された。
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