アミロイドβペプチド(Aβ)はアルツハイマー病の主要病原因子であり、Aβの凝集・沈着が神経細胞死を惹起するため、Aβの凝集現象を抑制することはアルツハイマー病の予防・治療に結びつく重要な鍵になる。一方、近年、加齢に伴い生体内のアミノ酸がD-体へ異性化する現象が報告されている。申請者は既にAβに3箇所(1位、7位及び23位)存在するアスパラギン酸(Asp)のD-体への異性化が、Aβの凝集体形成に至る構造・物性変化の過程に大きな影響を及ぼし、Aβ凝集の促進・抑制に関わっていることを明らかにしている。そこで、今年度はさらにこのAβ中のD-Aspの存在が、Aβの神経細胞毒性に与える影響について解析した。 神経細胞毒性の測定には神経細胞様に分化したPC12細胞株とマウス大脳由来の神経細胞の初代培養細胞系を用い、各々の培養系に各種D-Asp含有Aβを添加し、細胞毒性を計測した。まず、顕微鏡による形態観察により、全構成アミノ酸がL-体である正常型Aβと比較し、D-Asp含有Aβは神経細胞の樹状突起を大きく破壊していることを明らかにした。また、その結果として正常型Aβと比べ、D-Asp含有Aβでは神経細胞毒性が有意に高くなっていることも明らかにできた。 D-Asp含有Aβの中でも、特に23位のAsp単独、あるいは7位と23位の2箇所のAspがD-体に異性化した2種類のD-Asp含有Aβにおいて、高い神経細胞毒性が認められた。この結果は、申請者が既に明らかにしているこの2種類のD-Asp含有Aβにおいては凝集体形成に至る構造・物性変化もとりわけ大きいという事実と一致した傾向を示している。 今年度の研究結果から、Aβ中のD-Aspにより引き起こされるAβ凝集体形成に至る構造・物性の変化の大きさは、その神経細胞毒性の強さと直結する正の相関関係があることを明らかにすることができた。
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