近年、生体内のアミノ酸がL-体からD-体に異性化する現象が見出され、アルツハイマー病患者の脳内の老人斑の主要構成分子であるアミロイドβペプチド(Aβ)においても、異性化したD-Aspが確認されている。 Aβはアミノ酸42残基より成り、1位、7位及び23位にAspが存在し、それぞれのAspがD-体に異性化した各種D-Asp含有Aβが存在する。昨年度までにこれらのD-Asp含有Aβについて、固有の線維化・凝集体形成現象に関する構造・物性上の特徴を明らかにした。今年度はアルツハイマー病の患者の老人斑には、すべてのAspがL-体である正常型AβとD-Asp含有Aβとが混在していることに着目し、両タイプが混在しているときの各Aβの繊維化・凝集体形成の実態について、計測・観察を行い、互いに与える影響について検討した。 実験試料としては正常型Aβと昨年までの研究において特徴的な構造・物性を示すことを見出した[D-Asp23]Aβを用いた。線維化現象については、チオフラビンTアッセイ法及びアミロイド様線維化状況を明らかにするCongo red bindingアッセイ法を用いて解析した。さらに凝集体形成については透過型電子顕微鏡を用いて経時的に凝集体の形態観察を行った。その結果、凝集体中には正常型Aβと[D-Asp23]Aβが混在していることが観測された。しかし、線維化に関しては両タイプのAβが混在化しても[D-Asp23]Aβが正常型Aβの線維化に影響を与えることはなく、正常型Aβの線維化の促進は認められなかった。また、正常型Aβによって、[D-Asp23]Aβの線維化が即されることなく、老人斑中に正常型Aβと[D-Asp23]Aβが混在していても、互いに線維形成について影響を及ぼしあうことはないことが示唆された。
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