研究課題
我々は、転写因子として様々な細胞応答に関わる核内受容体分子に着目し、多発性硬化症(MS)をはじめとする自己免疫疾患の病態解明と、新規治療法の開発を目指した基礎研究を進めている。これまでに、網羅的遺伝子発現解析からMS患者T細胞で発現が亢進する因子として以前に同定したオーファン核内受容体NR4A2が、引き続く実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)等の動物モデルを用いた解析から、自己免疫病態形成に必須の分子であることを明らかにしている。自己免疫疾患の発症は、通常自己反応性Th17細胞を含む病原性T細胞による自己組織の障害が引き金となる。ところがヒトMSの場合、この初期のT細胞依存性組織障害と追随して、標的臓器に浸潤したミエロイド系細胞による炎症反応が誘発され、これが遷延化することで、その多くは再発・寛解を繰り返す慢性病態へと移行する。この一連の過程における免疫担当細胞間の相互作用は、主に急性病態を示す既存のEAEモデルのみを用いて説明ことが難しく、その詳細はほとんど解明されていない。我々は、今年度に新規に樹立したヘルパーT細胞特異的NR4A2欠損マウスのEAE解析を行ってきた。興味深いことに、中枢神経系および末梢血の病原性T細胞やミエロイド細胞は、NR4A2の欠損により極めて多彩な挙動を示すことから、それぞれが機能の異なるheterogenousな細胞集団からなることが徐々に分かってきた。MS患者の多くは再発と寛解を繰り返して病態が進行するが、この過程にT細胞とミエロイド系細胞が相互作用しつつ関与することは明白である。よってNR4A2欠損マウスは、既存のEAEモデルでは困難な、病態形成過程において各免疫担当細胞が有する多様な機能と、相互作用による持続的な病態形成機構の解析を可能にし、ヒト自己免疫疾患の多様性を細胞レベルで理解するための重要な手がかりを与える、極めて有効なツールであると考えられる。
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Uehara Memorial Foundation Proceedings ; Chembiomolecular Science : at the Frontier of Chemistry and Biology
巻: 2,012(印刷中)