研究課題
哺乳類の発生では受精卵から三胚葉(中胚葉・外胚葉・内胚葉)に分化した後、特定の組織や臓器が形成されていく。これらの発生は様々な遺伝子が発現上昇あるいは発現抑制しながら進行していくと考えられているが、その分子メカニズムについては未だ不明な点が多い。なかでも、将来に肺・膵臓・肝臓が形成されるもととなる内胚葉の分化については、分化誘導系が長らく確立されなかったこともあり、分子機構の解明が三胚葉の中で最も遅れている。しかしながら、近年、胚性幹細胞(ES細胞)を用いたin vitro内胚葉分化誘導系が報告され、我々の研究室でも、適当な培養条件下においてヒトES細胞とほぼ同等の性質を有するヒトiPS細胞(induced pluripotent stem cells)から内胚葉マーカーを発現する細胞群へ分化誘導可能であることを見出している。そこで、本研究では、ヒトES細胞や近年注目を浴びているヒトips細胞の内胚葉分化系を用いて内胚葉分化に関与する新規遺伝子の単離を試みた。その結果、Runx1遺伝子の発現が中内胚葉から内胚葉への分化過程で消失し、内胚葉特異的遺伝子であるFoxa2およびSox17の転写調節領域(プロモーター領域)に実際に結合し、その転写を負に制御していることが示された。同時に、Runx1遺伝子の転写能を阻害することにより、FoxA2、Sox17、GATA4等の内胚葉関連遺伝子の転写が活性化された。したがって、Runx1は中胚葉形成に重要であることは既に知られているが、本研究により内胚葉への分化も積極的に抑制していることも明らかとなった。
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