われわれは、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化因子PACAPがGsシグナルを介してタンパク質リン酸化酵素(PKA)活性化し、微小管結合タンパク質Doublecortin(DCX)をリン酸化することが細胞遊走促進を引き起こす要因であることを見いだした。DCXリン酸化の微小管における機能を解析したところ、PKAシグナルはDCXの微小管への親和性を減少させ、また野生型に比べ、DCXリン酸化型変異体はチューブリン重合能が減少しているごとが明らかとなった。しかし、PKAシグナルによるリン酸化DCXの微小管に対する効果だけでは、遊走能促進効果が説明できず、アクチン系に対する効果を調べたところ、リン酸化DCXは、ラメリポディア形成を促進し、さらにその運動性を増加させることがわかった。ラメリポディアの形成は、Racの活性化によって行われる。Racの優性抑制型変異体を発現させたところ、リン酸化DCXによるラメリポティアの形成は阻害された。さらにRacの活性化をPAK-CRIBを用いたプルダウン法により検出した。培養神経前駆細胞をPACAPで刺激するとRacの活性化がみられ、この活性化はPKA阻害剤により抑制された。またPACAPによるRacの活性化はDCXのノックダウンにより抑制された。また、Racの活性化はDCXリン酸化変異体によってもみられた。これらの結果から、Gs-PKAシグナル伝達系がDCXのリン酸化を介してRacを活性化することがわかった。さらに、リン酸化DCXがRacのグアニンヌクレオチド交換因子であるAsef-2と相互作用することを見いだした。以上の結果から、微小管結合タンパク質として微小管の機能を調節するDCXが、Gタンパク質シグナルによりリン酸化されることで、微小管から離れ、Racを介してアクチン繊維のダイナミクスを調節するという新しい機構を見いだした。
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