研究概要 |
てんかん患者における記憶、注意、行動、あるいは意識などの認知機能障害や注意欠如多動性障害の発症率が高いが、電気痙攣を継続して負荷することで安定して長時間持続する運動亢進ならびに学習障害が惹起されることをすでにこれまでの研究から明らかにしてきた。今回の研究目的は、この痙攣発作に伴う長時間持続する精神障害の発症メカニズムを神経化学的、免疫組織学的ならびに行動薬理学的見地から明らかにする事である。痙攣モデルとして新たに化学痙攣(薬物誘発)によるキンドリングモデルを用いて詳細な検討を加えた。まず、電気痙攣負荷ラットのBDNF量に関しては前頭前野あるいは海馬のいずれにおいてもBDNF量が有意に増加した。しかし,抗てんかん薬であるバルプロ酸投与で全く影響は見られなかった。電気痙攣を継続して負荷するモデル動物においては、自発的交替行動率の低下の抑制には運動野2,帯状領域1,前辺縁領域および海馬CA3領域の神経活動が関与している可能性が考えられた。一方、電気痙攣負荷による脳組織学変化としては前頭前野あるいは海馬において細胞の脱落や変性は全く見られなかった。また、電気痙攣負荷ラットにおける自発的交替行動率に対するABT-418(α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体刺激薬)およびアナバシン(α7ニコチン性アセチルコリン受容体刺激薬)の影響を検討したところ,ABT-418 0.5mg/kg腹腔内投与で反復ECS負荷により低下した自発的交替行動は有意に増加した。一方,アナバシン3mg/kgの腹腔内投与では何ら影響が見られなかった。従って、てんかんに伴う短期記憶障害に対してα7受容体ではなく,α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体を介したアセチルコリン神経系の関与が示唆され,α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体作動薬が新たな短期記憶障害治療薬に結びつく可能性を示唆した。さらにペンチレンテトラゾールキンドリング(化学痙攣)モデルマウスでは長期記憶が障害されている可能性があることを明らかにし、電撃痙攣モデル動物と薬物痙攣モデル動物では記憶障害に違いがあるものの,てんかん患者における学習障害を反映する動物モデルとして有用である事が示唆された。
|