研究概要 |
マウス胸腺から単離した胸腺細胞をconcanavalin Aにより刺激し、細胞増殖を誘導したとき、1日目には主に細胞死が観察され、2日目には主に細胞増殖が観察された。リアルタイムPCR法とウェスタンブロット法により、経日的に野生型K_Ca3.1及び機能不全型K_Ca3.1-sp(ドミナントネガティブ体)の遺伝子・タンパク質発現を測定したところ、胸腺細胞の細胞死の際にK_Ca3.1-spが発現増大し、K_Ca3.1チャネル活性が阻害される可能性を見出した。また、K_Ca3.1チャネル阻害薬を投与すると、concanavalin Aによる胸腺細胞増殖は顕著に抑制され、それに伴い、K_Ca3.1-spが発現増大した。次に、ヒト由来白血病細胞株K562細胞をホルボルエステル(PMA)刺激により巨各細胞に分化誘導したところ、巨核球マーカーであるCD-41の発現増大に伴い、野生型K_Ca3.1の発現増大が観察された。また、K_Ca3.1チャネル阻害薬を投与すると、巨核球への分化は、部分的であるが、有意に抑制された。 K_Ca3.1遺伝子の転写制御機構については、T細胞においてFos/Jun複合体であるAP-1の活性化がK_Ca3.1遺伝子発現を正に制御するという報告がある。本研究では、K_Ca3.1-sp発現調節にAP-1の構成分子のうち、Fra-1, -2が関与する可能性を見出したが、より詳細な機構を明らかにするためにはさらなる検討が必要である。酵母two-hybrid法により、K_Ca3.1のC末端細胞内領域と相互作用する可能性のある分子群をスクリーニングした結果、Ca^2+結合タンパク質であるカルモジュリンに加えて、細胞骨格であるスペクトリンとチロシンキナーゼFynを同定した。スペクリトリンに関しては、K562細胞の巨核球への分化時に、K_Ca3.1と同様に発現増大することを見出したが、今後、それらをRNAi法によりノックダウンし、K_Ca3.1活性、細胞内分布の変化、細胞増殖、分化への影響について、電気生理学、バイオイメージング、細胞生物学的実験法により検討する必要がある。
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