(1)アルツハイマー病患者大脳皮質において、脳神経細胞に発現するユビキチンリガーゼ(E3)HRD1タンパク質の界面活性剤可溶性画分における有意な減少が認められた。そこで、HRD1を不溶化させる因子の一つとしてAβによる神経毒性が考えられたため、マウス神経芽腫細胞(Neuro2a)にAPPを過剰発現させ、Aβ産生量を増加させた結果、HRD1タンパク質の発現誘導が認められた。したがって、アルツハイマー病患者においては何らかの因子によってHRD1が不溶化し、機能するHRD1量が減少した結果、神経変性が惹起され、アルツハイマー病発症に至っている可能性が考えられた。 (2)HRD1による神経分化の制御機構を検討するために、神経幹細胞モデルとしてのマウス胚性腫瘍細胞株P19細胞および胎生マウス由来神経幹細胞を用いて、神経分化過程におけるHRD1 の発現量およびHRD1欠損による神経系の各種マーカータンパク質の発現量を解析した。小胞体ストレス誘導試薬であるツニカマイシンは、暴露4日目に小胞体ストレスマーカーの発現を増加させるとともにHRD1の発現を増加させた。したがって、小胞体ストレスは、HRD1の増加を介して神経細胞への分化を促進する可能性が推察された。 (3)ケミカルシャペロン機能を解析する目的で、4-PBAの炭素鎖の変化(n=3~6)により、in vitroにおいてnが大きいほどタンパク質凝集抑制活性が高いことが分かった。さらにツニカマイシンを用い、小胞体ストレスで誘導した神経細胞死に対する保護作用もnが大きいほど強く、小胞体ストレスマーカーであるGRP94とGRP78の発現量も同様に減少していた。さらにpae1-Rの過剰発現細胞を用いて、特に3-PPAと4-PBAが変性タンパク質の移行を促進させることが明らかとなった。
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