研究概要 |
本年度は、糖尿病時の網膜血管反応性変化のメカニズムを明らかにするため、streptozotocin(65mg/kg,i.v.)を単回投与し、かつ5%ブドウ糖水溶液を飲水として与える方法で作製した糖尿病モデルラット及び正常ラットを用いてin vivo薬理学的検討を行い、次のような成果を得た。 1.EDHFの網膜血管拡張機序:糖尿病モデルラットの網膜血管において、K_<ATP>チャネル開口薬(pinacidil)による拡張反応は正常ラットと同程度であったことから、EDHFによる網膜血管拡張反応にK_<ATP>チャネルの寄与が少ない可能性を示唆した。 2.β_2受容体を介した網膜血管拡張機序:(1)β_2受容体刺激薬(salbutamol)による網膜血管拡張反応はBKCa、チャネル阻害薬(iberiotoxin)により抑制される一方で、β_3受容体刺激薬(CL316243)による反応は抑制されなかったことから、糖尿病時のβ_2受容体刺激による網膜血管拡張反応の減弱には、β_2受容体のBK_<Ca>チャネルを介した機序の障害が関与している可能性を示唆した。(2)アデニル酸シクラーゼ活性化薬(forskolin)及びprostacyclinによる網膜血管拡張反応には、BK_<Ca>チャネルの関与は低かったことから、β_2受容体刺激によるBK_<Ca>チャネルの活性化はGsタンパク共役型受容体に特異的な機序ではなく、またGsタンパク共役型受容体刺激後の下流のシグナルの関与も少ない可能性を示唆した。 以上の結果から、β_2受容体刺激によりBK_<Ca>チャネルの活性化を介して網膜血管を拡張する機序も一部存在し、糖尿病時にその機序が障害されることが示された。来年度は、本研究成果を元に、さらにin vivoによる検討を進めながら、糖尿病発症初期に観察される網膜循環調節異常の分子機序をin vitro実験も織り交ぜながら解析する予定である。
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