本研究では、脳病態時におけるエンドセリン(ET)の役割について、脳浮腫の産生に関与する因子のとの関連について研究し、平成22年度では以下の知見が得られた。 ・ H21年度での検討で、ETB受容体アゴニストのラット脳室内への持続注入は、大脳皮質のVEGFmRNAと蛋白量を増加させることを示している。これに続いて本年度は、VEGF受容体(VEGF-R1およびVEGF-R2)の発現を検討したが、ETBアゴニストの投与は、これらの受容体発現には影響しなかった。 ・ ETBの脳内投与によるVEGFシグナル系の変化を、VEGF-R1およびVEGF-R2受容体のチロシンリン酸化を指標に検討した。その結果、ETBアゴニストの投与は、両VEGF受容体のチロシンリン酸化を増加させた。また、ETB受容体アゴニスト投与ラットの免疫組織化学的解析は、チロシンリン酸化されたVEGF-R1受容体はアストログリアに、リン酸化されたVEGF-R2は、脳血管内皮細胞に局在していることを示した。これらの結果は、ETBアゴニストにより、アストログリアおよび脳血管内皮細胞でのVEGFシグナルが活性化することを示唆する。 ・ H21年度の検討で、EB受容体アゴニストのラット脳室内への投与は、大脳皮質において水チャネルであるアクアポリン4(AQP4)mRNAと蛋白量を減少させることを示した。これに続いて、本年度は培養アストログリアを用い、ETによるAQP4の発現減少を検討した。培養アストログリアにおいて、ET-1およびETBアゴニストAla-ET-1がAQP4の発現量を減少させることを明らかにした。また、この減少に伴い、アストログリアの細胞膜を隔てた水の輸送を減少させた。このことは、脳傷害時にETがAQP4減少を介して、脳浮腫を増悪している可能性を示唆する。そして、これらの結果はH22年度に論文発表された。
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