リゾホスファチジン酸(LPA)は細胞の増殖や形態変化などに関与する細胞外シグナル伝達脂質である。LPAをリガンドとする受容体は現在までに8種類(LPA1~6、GPR87、P2Y10)が同定されている。LPAは神経系において、突起の退縮を促進すること、この作用はLPA3、GPR87、P2Y10を除く受容体を介して生じることが知られている。LPA3遺伝子は脳において発現していることが報告されているが、神経系における作用は明らかではない。本研究ではLPA3を介した神経系細胞の形態変化とそれに関わる細胞内情報伝達を検討した。LPAに対して形態変化を示さないラット由来神経腫瘍細胞(B103)にLPA3を発現させ、その神経突起形態を観察した。LPAやLPA3アゴニストである(2S)-OMPTで刺激すると、神経突起の分岐数が2~2.5倍に増加した。薬理学的手法を用いて、LPA3を介した神経突起の分岐形成に関与する細胞内情報伝達について検討したところ、Gq-PLCを介したイノシトールリン脂質シグナル伝達系の関与が明らかになった。また、単量体Gタンパク質のRnd2およびそのエフェクターであるRapostlinを介して、分岐形成が促進されることも示された。実際にLPA3活性化によりRnd2が活性化されることを、新たに確立したプルダウン実験法により確認した。また、LPA3はマウス海馬初代培養神経細胞の軸索分岐形成に関与していることを見出した。本研究よりLPA3を介して神経突起の分岐形成が促進されること、その細胞内情報伝達においてGq-PLCおよびRnd2-Rapostlinが関与していることが明らかになった。LPA3は発達期の海馬において神経ネットワークが活発な時期に発現していることから、脳神経系におけるネットワーク構築に関与していることが示唆される。
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