リゾホスファチジン酸(LPA)は細胞の増殖や形態変化などに関与する細胞外シグナル伝達脂質である。LPAをリガンドとする受容体は現在までに6種類(LPA1~6)が同定されている。LPAは神経系において、突起の退縮を促進すること、この作用はLPA3を除く受容体を介して生じることが知られている。LPA3遺伝子は脳において発現していることが報告されているが、神経系における作用は明らかではない。本研究では前年度に引き続きLPA3を介した神経系細胞の形態変化とそれに関わる細胞内情報伝達を検討した。LPA3アゴニストである(2S)-OMPTでマウス海馬初代培養神経細胞を刺激すると軸索分岐形成が促進された。この作用はラミニン基質上で培養された海馬神経細胞や大脳皮質神経細胞においても認められた。shRNAプラスミドを用いてLPA3やRnd2の発現をノックダウンした神経細胞においては2(S)-OMPTの分岐形成作用が観察されなかった。新たにRapostlin分子に対する抗体を作成し、その細胞内局在を調べた。蛍光二重免疫染色法によりLPA3とRapostlinが神経成長円錐やバリコシティー部に共存することが明らかとなった。これまでの研究成果よりLPA3を介したシグナルは脳神経系におけるネットワーク構築に関与していることが示唆された。
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