カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は健常者に感染すると深刻な疾患を起こさずに潜伏感染し、エイズや免疫抑制剤投薬下等の免疫不全時にカポジ肉腫やB細胞性リンパ腫を引き起こす。しかし、KSHVは発見されてから17年しか経っていないため、その感染や発がんの仕組みなど不明な点が多い。また、有効な抗KSHV薬が無いため、その開発が期待されている。そこで、本研究ではKSHVゲノムがコードするウイルス性リン酸化酵素(ORF21およびORF36)に焦点をあて、KSHVリン酸化酵の生理機能や細胞内における動態の解析と抗KSHV薬の開発を実施した。 今までの研究により、ORF36はE2Fの転写活性化を行い、細胞周期のG1期からS期移行を促進していることを明らかにした。なお、転写因子であるE2Fは、がん抑制遺伝子産物Rbに結合されると不活性化されているが、RbがCDK/サイクリン複合体によりリン酸化されると、E2FはRbから遊離し転写因子として機能する。今年度の研究において、ORF36はRbをリン酸化し、このORF36によるRbのリン酸化はRbからのE2Fの遊離とE2F活性化を誘導することが明らかにされた。 次に、KSHVがコードするORF21、ORF36、ORF73(LANA)の細胞内における分解と動態について解析を行った。その結果、ORF21、ORF36、ORF73は全て短寿命であり、細胞内のユビキチン・プロテアソーム系で分解されていた。さらに、ORF73のC末端側断片は非常に安定であり、分解を免れたORF73のC末端側断片はミトコンドリア蛋白質であるp32前駆体と結合し、p32のミトコンドリア内での成熟(プロセッシング)と機能(アポトーシス亢進活性)を阻害することを見いだした。 最後に、我々はKSHVの増殖抑制活性を有する化合物(抗KSHV化合物)の探索を行い、プロテアソーム阻害薬(MG132、PSI、ラクタシスチン)、アデノシン誘導体であるsangivamycin、および、HSP90阻害剤のゲルダラマイシン(GA)、ラディシコール、GAの誘導体17-AAGを抗KSHV化合物として同定した。
|