RNA干渉(RNA interference ; RNAi)を利用した遺伝子治療法がガンやウイルス性疾患に対する新しい治療法になるものと期待されている。RNA干渉は細胞内に導入した二本鎖RNAに由来する短鎖RNA(small interfering RNA ; siRNA)のアンチセンス鎖(ガイド鎖)と相補的な配列をもつmRNAの発現が抑制される現象である。この現象は、まず細胞に導入された長鎖二本鎖RNAがDicerにより切断され、siRNAと呼ばれる3'-末端が2塩基突出した短い二本鎖RNAが生成されて進行する。siRNAはその後、一本鎖(ガイド鎖)となり、RISC(RNA induced silencing complex)と呼ばれるリボ核タンパク質を形成する。そして、この一本鎖siRNAが相補的な配列を持つmRNAを認識し、siRNAの中央部でmRNAが切断、分解されることでタンパクへの翻訳が阻害される。RISCにおけるsiRNAの鎖の選択には、熱力学的に不安定な末端領域に5'-末端が存在する鎖が優先的にRISCに取り込まれることがこれまでに報告されている。また、アンチセンス鎖の5'-末端のリン酸化も鎖の選択に寄与していることが示唆されている。本研究では、センス鎖の5'-末端部位にインターカレーターとしてアントラセンを結合させたアナログEを導入したsiRNAを設計・合成し、その性質を検証した。その結果、センス鎖の5'・末端にEを導入した場合に、RNAi活性が向上することが明らかとなった。これはセンス鎖の5'-末端の熱的安定性化の向上およびリン酸化を防いだことにより、アンチセンス鎖の選択性が向上したためと考えられる。以上の結果から、インターカレーターをセンス鎖の5'-末端に導入することで、センス鎖によるオフターゲット効果の抑制が可能であることが示唆された
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