研究概要 |
本年度は様々な癌治療に利用可能で汎用性が高く安全なDDS用標的毒素として,インターメディリシン/Sm-hPAFキメラSS変異体(ILY/PAF-SS)に加え,ILY/PAF-SSのコレステロール(CHL)親和性をより高めたインターメディリシン/スイリシンキメラSS変異体(ILY/SLY-SS)のN末に、黄色ブドウ球菌プロテインAのIgG結合ドメインZを融合した毒素を作成した。CHL含有リポソームへの結合性を検討した結果,後者が結合効率等で有利であり,以後は後者(Z-ILY/SLY-SS)を用いて検討した。固相化ヒト及びウサギIgGへのZ-ILY/SLY-SSの結合性を確認した結果,両IgGへ高い結合性が確認された。次に蛍光色素と抗癌剤5FUの封入されたリポソームに結合させたZ-ILY/SLY-SSに,癌胎児性抗原(CEA)に対するIgG抗体を連結させ,CEAを発現するヒト大腸癌細胞LoVoに作用させて蛍光顕微鏡観察した結果,LoVo表面へ大量のリポソーム結合像が見られ,そのリポソームが細胞内に取り込まれ崩壊し蛍光が拡散した像も確認された。またその後の培養で,一部の細胞で5FUによる細胞障害作用も見られた。一方,Z-ILY/SLY-SSのみを結合したリポソームではこのような結合・取り込みは見られなかった。さらに,ヒト正常線維芽細胞NB1RGBとLoVo細胞の混合培養系でも標的化を行った結果,LoVoへの特異的なリポソームの集積・結合が確認され,NB1RGBへの結合はほとんど見られなかった。従って開発したZ-ILY/SLY-SSは種々の抗癌抗原抗体と併用することで,汎用性の高い癌治療用DDSツールとして利用可能と考えられた。現在,細胞膜結合部位を欠く緑膿菌外毒素Aを封入したリポソームを用いて目的とするDDSの検討を継続しており、その結果を基に次年度の研究を進めていく。
|