研究概要 |
β-ラクタム剤は感染症治療において頻繁に用いられている抗菌剤であり、特に広域抗菌スペクトルを示す第三セフェム系やカルバペネム系β-ラクタム剤は近年急速に使用量が伸びている。しかし、耐性を獲得した病原菌が院内感染の要因ともなり大きな社会的問題となっている。その原因の一つにメタローβ-ラクタマーゼの産生が挙げられる。メタロ-β-ラクタマーゼは既存のセリン型のβ-ラクタマーゼ阻害剤であるクラブラン酸やスルバクタムには無効であり、臨床で使用可能な阻害剤は見つかっていない。 本研究では、この酵素の活性中心構造の周囲の環境と我々が報告したメタロ-β-ラクタマーゼ阻害剤としてのメルカプト化合物の活性中心への配位を明らかにすることを目的とした。 メタロ-β-ラクタマーゼ(IMP-1)のアポ酵素を我々の方法に従って調製した。次に、コバルト二価イオン、亜鉛二価イオンの2種類の金属イオンでアポ酵素の活性中心に存在する2つの金属イオン結合サイト[サイト1(3つのHis残基が金属イオンに配位)とサイト2(His,Asp,Cysが金属イオンへ配位)]への各金属イオンの結合親和性を分光滴定法により検討した。両方のサイトで亜鉛二価イオンはコバルト二価イオンより結合親和性が高く、また、サイト2よりサイト1との結合親和性が高いことが明らかとなった。 アポ酵素に2当量のコバルト二価イオンを添加して調製したコバルト置換酵素とメルカプト酢酸との相互作用を可視紫外吸収スペクトルにより調べた。コバルト置換酵素では、344nm,525,552,612と639nmに吸収が現れた。これにメルカプト酢酸を添加すると344nmの吸収が増大し、555,597,635nmに吸収が現れた。これにより、コバルト置換酵素の活性部位の金属イオンにメルカプト基が配位することがわかった。この結果から、メルカプト化合物はポロ酵素中の亜鉛二価イオンに配位し酵素活性を阻害すると考えられた。
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