研究概要 |
最近、アダマンタン骨格を含むvildagliptinやsaxagliptinを始めとする生理活性物質が多々報告され、生体内のタンパク質はアダマンタン骨格を認識する脂溶性ポケットを有していることが示唆されている。抗アルツハイマー病(AD)薬として欧米で使用されているメマンチン(日本では本年の2月に申請)(1-アミノ-3,5-ジメチルアダマンタン)は、NMDA受容体括抗作用を有し、神経保護作用並びにパーキンソン病の改善効果を示す。一方、より強いNMDA受容体括抗作用を持つMK-801は統合失調症を引き起こすために、アルツハイマー病の治療薬として開発されるには至っていない。これまでにアミノアダマンタンのブリッジヘッドに1~3個のメチル基を持つ化合物を合成し、NMDA受容体との結合実験の比較を行った結果、メマンチンが最も活性が高く、モノメチル体、トリメチル体いずれも活性は低下することが判明した。このことはアダマンタンの架橋位に2つのアルキル基の存在が不可欠であることが判明している。 昨年度に、1.アダマンタンのブリッジヘッドの臭素化によりプロモアダマンタンを合成し、このプロモアダマンタンを利用したGrignard反応にてメチル基が導入されることを明らかにしたが、他のGrignard試薬(ethyl,propyl Grignard試薬)ではアルキルアダマンタンは生成しなかった。しかしながらallyl Grignard反応では高収率でallyl基が導入されることが判明したので、本年度はこのプロモアダマンタンのGrignard反応の詳細な検討、アリル化反応、次いで接触還元によりプロピル基を導入し、本反応を用いて、1-amino-3-methy1-5-propyladamantane(ラセミ体)の合成を検討することとした。1-amino-3-methy-5-propyladamantaneはアダマンタンの四つのブリッジヘッドに異なる置換基が導入されているために分子不斉である。ブリッジヘッドの置換基による光学活性なアダマンタン誘導体の合成の報告はないので、1-amino-3-methy1-5-propyladamantaneのアミノ基を利用した、キラルなカルボン酸を用いた光学分割を検討する。さらにアリル基の導入を基に、さらに種々の置換基の導入を検討し、光学分割を試みるとともに、メマンチンを凌ぐ高活性を有する化合物の探索研究を行う。
|