本年度は、新規な抗ガン剤開発の標的となる癌遺伝子CRK nSH3ドメインとグアニンヌクレオシド交換反応促進因子C3Gの相互作用について、水溶液中でのMDシミュレーションを用いた詳細な解析を行った。 1 先ず、CRK nSH3ドメインとC3G由来の10残基ペプチドの複合体X線結晶構造(PDB : 1CKA、C3GペプチドのC末端Arg残基については座標が与えられていなかったため、モデリングにより構築した)を水の箱に入れ、水溶液中でのMDシミュレーションを全部で10ns行なった。次に、初期構造からの座標に関するRMSDをプロットすることで、MDシミュレーションが2nsから10nsの間で平衡に達していることを確認した。そこで、2-10ns間から40ps毎に全部で200スナップショットを抽出し、CRKnSH3-C3Gペプチド複合体の溶液構造アンサンブルとした。 2 C3GペプチドのC末端Arg残基をAla残基に変異させたペプチドは、CRK nSH3との結合親和性が低下することが報告されている。そこで、1で得られた溶液構造アンサンブルを用いて、C3GペプチドのC末端Arg残基について詳細な解析を行った。その結果、C3G-1ペプチドのC末端Arg残基は、溶液中でCRK nSH3ドメインのD163やP165と動的な相互作用を形成していることが明らかとなった。 今後は、本年度得られた溶液構造アンサンブルから代表溶液構造を選択し、その代表鍵穴構造を用いてスクリーニング計算を行う予定である。
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