研究概要 |
東アジアでも特に大きな人口を抱えて産業・経済が急速に発展している中国では,特に石炭,石油などの化石燃料の大量消費で発生する燃焼排ガス及び粉じんによる大気汚染が大きな社会問題となっている。しかも,これらの汚染物質は黄砂と共に,我が国まで長距離輸送されている。今年度では,昨年度に引き続き,多環芳香族炭化水素(PAH)及びニトロ多環芳香族炭化水素(NPAH)を対象に,それらの汚染実態及び経年変動を明らかにすることを目的として,偏西風の風上,風下の位置関係にある中国の藩陽,金沢大学輪島大気観測ステーション(能登半島輪島)及び金沢で大気粒子状物質を夏季と冬季に捕集して分析し,データの解析を行った。 その結果,金沢大学輪島大気観測ステーションで捕集した大気が冬季に中国東北部に由来し,夏季に太平洋や日本国内を通過しているのはこれまでと同様であった。また,大気中総PAH濃度は2005年から2010年にかけ増加する傾向が,一次生成NPAHの代表である1-ニトロピレン(1-NP)濃度は2006年から2010年にかけ減少する傾向が見られた。総PAH濃度の増加は,中国の石油石炭消費量が年々増え続けていることが主な原因と考えられた。1-NP濃度が増加しなかった理由として,2002年から2010年までに,藩陽の1-NP濃度は同程度で能登半島輪島の上空に流入した空気の通路上にある中国の東北部の大気中1-NPが増加していないことを反映していると推察される。一方,大気中二次生成NPAHのマーカーである2-ニトロピレンと2-ニトロフルオランテン濃度は,冬季に若干増加する傾向にあった。その理由として,反応種であるPAH(ピレン及びフルオランテン)が中国の東北部で増加したためと考えられた。
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