代表者はこれまでに、地下水汚染物質として問題になっている有機塩素系溶剤、トリクロロエチレン(TCE)が、それ自身が抗原となることなく、アレルギー発症に関与する可能性があることを報告してきており、本研究は、その詳細なメカニズムを検討することを目的としている。昨年度、BALB/cマウスに卵白アルブミン(OVA)抗原として、アジュバントとして水酸化アルミニウムゲルを用いて、免疫を行い、その際にTCEを同時に2週間飲水により曝露した場合の脾臓細胞の増殖を検討したところ、OVA特異的な細胞増殖が亢進していることが確認された。 今年度はこの脾臓細胞についてフローサイトメトリーによる細胞プロファイルの検討を行ったところ、TCE曝露群で脾臓細胞中CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、CD3陽性細胞の増加が確認された。このことからin vivoにおいてT細胞の分化に対しても影響を与える可能性が示唆された。 また未処置のBALB/cマウスから回収したリンパ球細胞についてin vitroで抗CD3抗体により刺激を行い、同時にTCEを処理したところ、10^<-9>M以上の濃度のTCE処理により、抗CD3抗体刺激によるT細胞増殖の亢進が確認された。またCD4、CD8陽性細胞を分取して同様の検討を行ったところ、CD8陽性細胞でより顕著な細胞増殖の亢進が確認された。 以上のことからTCEはin vivoにおいて抗原特異的なT細胞増殖の亢進に関与だけでなく、T細胞レセプターシグナルに対して直接的に作用し細胞増殖を亢進する可能性が示唆された。また、その作用はCD8陽性細胞においてより顕著である可能性が示唆された。
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