本研究は重金属依存性転写因子MTF-1を細胞内亜鉛のイメージングセンサーとして利用することを目的としており、そのためにはMTF-1の亜鉛応答機構を明らかにすることが重要である。本年度は、主としてMTF-1の亜鉛フィンガードメインに関して多角的な解析を行った。その結果、本転写因子の亜鉛フィンガードメインは単純なDNA結合モジュールではなく、亜鉛依存的なタンパク構造変化を介して核局在性や転写活性化などにも関与する多機能性フィンガーであることが分かってきた。具体的には、 1.MTF-1は、非変性ゲル電気泳動において亜鉛依存的な移動度変化を起こすが、これは本因子の亜鉛依存的なタンパク構造変化を反映している可能性が高い。そこで、MTF-1の各種Cys変異体の大腸菌リコンビナントタンパクを作成して検討したところ、6個の亜鉛フィンガーのうち、第3および第4フィンガーへの亜鉛結合がこの変化に重要であることが明らかとなった。 2.MTF-1の各種欠失変異体や種々のCys点変異体の細胞内分布を詳細に解析した結果、第3フィンガーへの亜鉛結合は核局在にも必須であることが明確となった。 これら1、2の結果より、第3フィンガーへの亜鉛結合が本因子の亜鉛応答性にとって重要であることが示唆される。 3.一方、第5フィンガーへの亜鉛結合はMTF-1の転写活性に重要であることが分かっていたが、今回第5フィンガーと他のフィンガーとのスワッピングを行うことにより、そのアミノ酸配列よりもフィンガードメインにおける位置が重要であることが分かった。 亜鉛フィンガー以外で亜鉛依存性転写活性化に重要な部分として、酸性アミノ酸領域にあるCys残基、およびC末端領域のシステインクラスターがあり、その部分とコアクチベーターとの相互作用やSUMO化等の翻訳後修飾の有無、およびそれらの亜鉛応答との関連性に関して現在検討中である。
|