本研究は、重金属応答性転写因子であるMTF-1に着目し、その重金属応答メカニズムを解明することにより、環境中の重金属イメージングセンサーとして利用することを目的としている。前年度までの解析により、MTF-1の亜鉛フィンガードメインが、DNA結合のみならず、核局在性や転写活性化など、多機能性をもつという結果を得ている。一方、非変性ゲル電気泳動を用いてMTF-1が亜鉛依存的に自己重合する可能性を見出しており、それが重金属応答性において本質的なものであることが考えられた。そこで本年度は、主としてこの現象と亜鉛センサー機能との関係、および亜鉛フィンガーの関わりについて解析を行った。 (1)異なるタグを持つ二種類のMTF-1を培養細胞内に発現させ、免疫沈降法で解析したところ、異なるタグを持つMTF-1の亜鉛処理依存的な共沈が認められた。この結果は、MTF-1が亜鉛依存的に自己重合することを示唆している。 (2)さまざまな欠失変異体のリコンビナントタンパクを作成し、それらをin vitroにおいて亜鉛処理して解析したところ、自己重合には亜鉛フィンガードメインが絶対的に必要であった。さらに、6個の亜鉛フィンガーそれぞれの点変異体を同様の解析に供したところ、第3および第4フィンガーの破壊により自己重合が阻害された。このことは、自己重合が、非特異的なタンパク凝集ではなく、特定のタンパク領域を介する会合であることを示唆する。 (3)亜鉛依存的な自己重合をFRET解析で検出するべく、2分子FRET法を行った。二種の蛍光タンパクを融合したMTF-1をHeLa細胞に発現させてさまざまな条件を検討したが、亜鉛依存的なFRETを検出することができなかった。したがって、この現象を利用して亜鉛センサーとして活用するには、さらなる工夫が必要である。
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