アセトアセチルCoA合成酵素(AACS)は、脂質のβ酸化に伴って生じるケトン体を合成基質として再利用する際に重要な酵素である可能性が高い。そこで、脂質代謝を活性化する因子であるレプチンが、代謝産物であるケトン体の利用も制御している可能性を考え、中枢系・末梢系の各種培養細胞を用いて検討した。その結果、神経細胞(N41細胞)ではAMP依存性キナーゼ(AMPK)の阻害剤(compound C)で発現が上昇し、AMPK:の活性化剤(AICAR)で減少したが、逆に筋細胞(C2C12細胞)や脂肪細胞(3T3-L1細胞)では阻害剤で発現が減少、活性化剤で上昇した。これは、レプチンシグナルのAMPK(活性に与える影響が細胞種により違うという既知の報告と一致していた。また、いずれの細胞系でも転写因子STAT-3の阻害ペプチドはAACS発現に影響を与えなかった。一方、ケトン体のエネルギー利用に関わるCoA転移酵素の発現は、いずれの薬剤を処理してもすべての細胞種で影響を受けなかった。従って、レプチンはAACSを介するケトン体の合成基質としての利用のみを制御すると考えられ、ケトン体から合成された脂質類が、レプチン-AMPKシグナルの下流を担っている可能性が示唆された。また、本酵素は肥満時に雄の皮下脂肪組織で特に強く発現していることから、本酵素と性ステロイドの関連を検討する目的で培養脂肪細胞(3T3-L1)を用いて検討した。その結果、テストステロン及び17βエストラジオールはAACS遺伝子発現を分化した3T3-L1細胞で誘導するが、cisアンドロステロンは誘導せず、AACSは成熟した脂肪細胞において男性ホルモン特異的に制御される性特異的な肥満関連因子である可能性が明らかとなった。
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