本研究の目的は、in vivoで精子産生機能を障害する化合物の作用機構、特にアリル炭化水素受容体(AhR)の役割を明らかにすることである。平成22年度までの研究で、benzo[a]pyrene(BaP)がマウスの精子産生機能を障害することを明らかにした。そこで、本年度はddYマウスにBaPとAhRアゴニストであるα-ナフトフラボン(α-NF)を併用投与し、精子数を計数した。その結果、BaPを単独投与したマウスに比べ、α-NFを併用投与したマウスでは精子数が増大し、α-NFがBaPの精子産生機能障害を減弱することが示唆された。BaPの精子産生機能障害にAhRが関与していることが考えられる。 また平成22年の研究では、BaPの処置により発現が増強または減弱する遺伝子を特定することを目的に、BaPで処置したマウス精巣セルトリ細胞由来のTM4細胞からtotal RNAを抽出してcDNAを作製した後、differential display kitを用いてPCRを行い、ポリアクリルアミド電気泳動を行った。その結果、対照に比べ発現が増強または減弱するバンドがいくつか観察された。そこで本年度は、BaPを投与したddYマウスから精巣を摘出し、total RNAを抽出した後cDNAを調製し、differential display kitを用いてPCRを行った。PCRはTM4細胞と同様のプライマーを使用した。その結果、対照に比べ発現が増強または減弱するバンドがいくつか観察されたが、そのパターンはTM4細胞を用いた結果とは異なっていた。以上の結果から、BaPによって発現が増強または減弱する遺伝子が、TM4細胞とddYマウスの精巣では一致しないことが示唆された。他のプライマーを用いて、再度differential display法を行う必要が考えられる。
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