研究概要 |
水環境中に存在する多環芳香族炭化水素類は塩素と反応することにより塩素置換体に変化することを、固相抽出-ガスクロマトグラフィー/質量分析計により明らかとした。しかし、現在、定量分析を実施するために必要な標準物質を市販品として入手することはできない。そこで、DewhurstとKichenが報告している方法(F.Dewhurst and D.A.Kichen : Synthesis and properties of 6-substituted benzo[a]pyrene derivatives, J.Chem.Sco., Perkin Trans, 1710-712 (1972))にしたがって、環境中で広く存在が調査され、有害影響も強いベンゾ[a]ピレン(B[a]P)を代表物質として塩素置換体を合成した。併せて、臭素置換体も合成した。溶媒再結晶法により濃縮・精製した標品は、NMRにより一塩素置換体は96.7%、一臭素置換体は97.2%、二塩素置換体は94.6%の純度であることを確認した。含有する不純物は再結晶に用いた溶媒であると推定された。一塩素置換体は6位に塩素が置換しており、一臭素置換体も6位に塩素が置換していることがNMRによる解析で明らかとした。しかし、二塩素置換体は6,11-位と6,11-位に塩素が置換した混合物として回収され、両物質を分離精製することはできなかった。これらの3種の精製標品とB[a]Pによる10μMを最高濃度とした24時間曝露による結果では、マウス胎性幹細胞及びHepG2細胞に対して有意な細胞毒性を示さなかった。しかし、溶存性B[a]Pを塩素処理した後、固相抽出した標品を用いたHepG2細胞に対する5日間の曝露においては、低濃度において有意な細胞毒性が認められており、長期間及び低濃度曝露による細胞毒性についても検討する必要が明らかとなった
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