ニューキノロン系抗菌薬の注意すべき副作用の一つに、低血糖や高血糖という血糖値異常がある。本研究は、ニューキノロン系抗菌薬による血糖値異常について、薬物投与から血糖値の変動までの過程を表すことのできる薬物動態モデルと薬力学モデルを統合した速度論モデルを構築することにより、薬物による副作用を予測し、より安全で有効な抗菌薬の使用法の確立を目指す。 動物実験にはラットを使用し、エーテル麻酔下でラットの頚動脈と頚静脈にカニュレーションを施し、覚醒後静脈カニューレから薬物溶液を注入し、経時的に採血した。血液中の薬物濃度、エピネフリン濃度、ヒスタミン濃度はHPLC法にて測定し、血糖値はグルコースオキシダーゼ法、インスリン濃度はEMIT法でそれぞれ測定した。その結果、ガチフロキサシンは25~100mg/kgの用量範囲で、低用量では血糖値の低下、高用量では血糖値の上昇を示し、低血糖はガチフロキサシンによるインスリン分泌の促進に基づくこと、一方、高血糖はガチフロキサシンがヒスタミンの遊離を促し、ヒスタミンが副腎髄質からのエピネフリンの分泌を促し、血中エピネフリン濃度の上昇が血糖値の上昇を引き起こすことが明らかとなった。さらに、血糖値低下作用のみを示し、血糖値上昇作用は示さないと考えられる抗不整脈薬シベンゾリンを用い、正常ラットに対してニューキノロン系抗菌薬と同様な実験を行ったところ、シベンゾリンの血中濃度に応じた血中インスリン濃度の上昇、血糖値の低下を認め、腎障害ラットではシベンゾリンの血中濃度が上昇することが明らかとなった。次年度においては、これらの薬物濃度変化と、インスリン濃度と血糖値の関係を説明できる速度論モデルの構築を検討する予定である。
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