前年度までの検討により、ラットにガチフロキサシンやレボフロキサシンを静脈内投与すると、用量依存的にインスリン分泌が促進され低血糖を引き起こすこと、さらに高用量を投与するとヒスタミン遊離に基づくエピネフリン分泌により高血糖が起こることが明らかとなった。さらに、臨床的に低血糖の副作用が問題となる抗不整脈薬シベンゾリンを用いてニューキノロン系抗菌薬と同様な実験を行った結果、シベンゾリンの濃度に応じたインスリン分泌の亢進と血糖値の低下が観察された。シベンゾリンの血中濃度、血糖値、血中インスリン濃度を速度論的に関係づけるために、シベンゾリンの体内動態を非線形過程を含むコンパートメントモデルで記述し、血中薬物濃度に応じたインスリン分泌の過程をJuskoらの間接モデルで取扱い、インスリン濃度に応じた血糖値の変化についても間接モデルを組み合わせることにより、薬物投与後の血糖値変化を記述する速度論モデルを構築することができた。本年度は、インスリン分泌促進作用が軽微で高血糖を主に示すモキシフロキサシンを対象に速度論モデルの構築を検討した。さらに、高血糖と低血糖の両方向の血糖値異常が知られているカリニ肺炎治療薬のペンタミジンをラットに20分間静脈内持続注入し血糖値への影響を検討したところ、ペンタミジン15mg/kgの投与速度で血糖値は有意な上昇を示したが、7.5mg/kgでは血糖値の変化は認められなかった。また、ペンタミジン投与によるヒスタミン濃度の変化は認められなかったことから、ペンタミジンはニューキノロン系抗菌薬とは異なるメカニズムにより血糖値の上昇を引き起こすものと推察された。
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