研究概要 |
本年度は,1)成長過程におけるアゾール系抗真菌剤ボリコナゾール(VRCZ)および免疫抑制剤ミコフェノール酸(MPA)の体内動態変動要因の検索,2)MPA投与患者についての臨床症例のデータ集積,について研究を行った. 1) VRCZについては昨年度の結果を受けて,その代謝に関わる可能性の高い酵素の阻害剤4種類について阻害効果が週齢間で異なるかを比較した,しかし,週齢間で阻害効果に差は見られず,成長過程で活性が異なる代謝酵素の特定はできなかった. 一方,週齢の異なるラットを用いてMPAの体内動態を比較した結果,成熟ラットに比較して幼若ラットで血漿中濃度の消失が速やかであり,この要因はMPAのグルクロン酸抱合体(MPAG)の胆汁分泌から始まる腸肝循環が幼若ラットで未発達なためであることを明らかにし,さらに,排泄トランスポーターの発現が成長過程で異なることを示唆する結果を得た. 2) MPA投与患者のトラフ濃度を測定し,薬物の血漿中濃度と投与量や有効性・安全性との関連を評価した.その結果,MPAGとMPAとの比(MPAG/MPA)がMPAの安全性の指標になること,また,肝機能を反映する検査値のALPやALTが,MPAG/MPAを予測する指標になることを示唆する結果を得た. グルクロン酸抱合を受け排泄される医薬品は数多くあり,MPAの結果がこれらの薬物にも応用できれば,医薬品の適正使用,さらに,医薬品開発に対して極めて有用な情報となる. 来年度は,本研究成果をMPAの適正使用情報のみでなくグルクロン酸抱合型薬物一般に適応できる情報であるかを評価するため,この系の薬物で臨床使用頻度が高く,TDM対象薬物の抗てんかん剤「バルプロ酸」について臨床症例のデータ集積と評価,および,週齢の異なるラットを用いて排泄トランスポーターの発現を比較する予定である.
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