研究概要 |
本年度は,グルクロン酸抱合を受ける薬物で,臨床での使用頻度が高くTDMが日常的に実施されている抗てんかん剤のバルプロ酸(VPA)について1.VPA投与患者の臨床データの集積・評価,2.ラットの成長過程におけるVPAの体内動態変動要因の検索,について研究を行った. 1.VPAのTDMを実施した患者データを金沢大学附属病院情報システムより抽出し,電子カルテより,年齢,体重,腎・肝機能,併用薬などの患者背景を調査した.VPAのトラフ血漿中濃度を1日投与量で割った値(C/D比)と年齢や肝機能との関係を比較・検討した.小児群(1~6歳)では成人群(30歳代)に比較してC/D比が低く,成長に伴ってC/D比が上昇する傾向が認められた.小児群では肝機能低下に伴いC/D比の低下傾向がみられたが,成人群では有意な変動は見られなかった.以上のことから,小児では成人と比較してVPAの消失が速く,この傾向は肝機能の低下に伴いより著明になることが示唆された. 2.週齢の異なるラットを用いてVPAの体内動態変動を比較した結果,昨年度検討したミコフェノール酸と同様に,成熟ラットに比較して幼若ラットで血漿中濃度の消失が速やかであり,この要因はVPAのグルクロン酸抱合体(VPAG)の胆汁分泌から始まる腸肝循環が幼若ラットで未発達なためであることを明らかにした.さらに,成熟ラットと比較して幼若ラットではVPAの胆汁排泄率,および,肝臓での胆汁分泌に関わるトランスポーター(Mrp2)のmRNA発現量の低下がみられた.これらのことから,成長に伴う肝臓での排泄トランスポーターの発現の増加が腸肝循環能の増大に関与することが示唆された. VPAでの成果は,他のグルクロン酸抱合を受け排泄される医薬品の使用上の問題点を検出し,解決策を考える上で意義のあるものである.
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