研究概要 |
抗てんかん薬であるクロバザムは,チトクロームP450(CYP)3A4によって活性代謝物N-デスメチルクロバザムに代謝され,N-デスメチルクロバザムはCYP2C19により不活化される.クロバザムは難治性てんかん患者に対して他の抗てんかん薬と併用されるが,クロバザム体内動態は併用薬だけではなく,CYP2C19遺伝子多型の影響を受けることが示唆されている.本研究ではクロバザム及びN-デスメチルクロバザム体内動態の母集団解析を行い,CYP3A5,CYP2C19遺伝子多型と併用薬の影響について定量的に解析した. 2007年3月から8月までに京都大学医学部附属病院神経内科で診療を受けた,クロバザム服用中の入院及び外来患者77名を対象に,過去1年間の血中濃度測定値総277点,さらに遺伝子多型解析に同意を得られた患者25名からはCYP2C19及びCYP3A5遺伝子多型情報を収集した.NONMEM解析の結果,クロバザムのクリアランスはカルバマゼピンの併用によって約2倍に上昇した.N-デスメチルクロバザムのクリアランスは、カルバマゼピン及びバルプロ酸の併用でそれぞれ1.3倍と1.5倍の上昇が確認された.さらにN-デスメチルクロバザムのクリアランスは,CYP2C19PMの患者ではEMの患者の約5分の1と顕著な減少を示した.また,ベイジアン法で予測される個々の患者のクロバザム/N-デスメチルクロバザムクリアランス比は,N-デスメチルクロバザム/クロバザム血中濃度比の実測値と良好な相関を示した(r^2=0.69. p<0.0001). 以上の結果、N-デスメチルクロバザムのクリアランスやN-デスメチルクロバザム/クロバザム血中濃度比は、併用薬よりもCYP2C19,遺伝子多型の影響を強くうけることが明らかになった.クロバザム及びN-デスメチルクロバザムの治療域は未だ明らかではないが,薬物療法の個別化にCYP2C19遺伝子多型解析が有用であると考えられる。今後、クロバザムの投与が新規開始となる患者を対象に遺伝子多型解析を行い、薬効・副作用との関係を探索する予定である.
|