腹膜透析患者では透析の継続により腹膜障害が起こり、腹膜透析の継続が困難になる。現在の所、腹膜障害の早期診断法並びに治療法は確立されておらず、これらの開発は急務である。診断法として我々は既に腹膜障害モデルラットにおいて、低分子化合物であるPSPにより腹膜障害に伴う透過性亢進を簡便に評価可能であることを報告しているが、対照ラットでもPSPは吸収されるため、対照ラットと腹膜障害モデルラットで吸収の程度の差が大きい高分子化合物の探索を引き続き行う。治療法として遺伝子治療を考えており、これまでに我々は腹腔内臓器表面への遺伝子導入に関する知見を得てきた。plasmid DNA単体でカチオン性キャリアを用いた際と同等の効率で遺伝子導入が可能であるが、個体差や細胞間差が大きく、適用部位において約半数の細胞に遺伝子導入された動物もあれば、数えるほどの細胞にしか遺伝子導入されない動物もあり、腹膜障害の治療に用いるためには、個体差・細胞間差を解消し、より広範に遺伝子導入する必要がある。そこで、遺伝子導入効率改善に繋がる情報を得るため、plasmid DNAによる遺伝子導入機構を解析したところ、マクロピノサイトーシスが重要であることが示された。得られた情報を基に、マクロピノサイトーシスの促進剤について検討したところ、PMAやFetuinでは遺伝子導入効率は改善されなかったが、EGFをplasmid DNA投与24時間前に適用したときに、遺伝子導入効率と遺伝子導入された細胞数が顕著に改善された。今後、より広範に遺伝子導入を行うための製剤設計を行い評価するとともに、腹膜障害時に起こっている現象が遺伝子導入に与える影響を解析していく予定である。
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