本研究では、長期腹膜透析施行時において問題となる腹膜の障害に対し、早期診断・治療法を確立することを目的としている。本年度においては、モデル動物としてMGO処理ラットを用い、簡便に早期診断可能な方法の開発に成功した。また、治療法としても、腹膜全体に遺伝子導入を行う簡便な方法の開発に成功した。 診断法として、低分子薬物PSPを用いることで、腹膜障害の早期に起こる腹膜透過性の亢進を評価できることは既に明らかにしていたが、腹膜障害の起こっていないラットでもPSPが吸収されてしまうことが問題であった。そこで、正常ラットとMGO処理ラットの腹膜透過性の差が最も大きくなる分子量が診断薬として適正だと考え、種々の分子量の蛍光標識デキストランを用いたところ、分子量1万のものが適切であるとの結果が得られた。また、分子量200万のデキストランを併用することで、水分の移動が補正できる可能性も示され、腹膜障害の指標薬と水分移動の指標薬としてそれぞれ分子量1万のものと200万のものを併用する方法を開発した。 治療法としては、遺伝子治療を考えている。これまで我々は、腹腔内臓器表面に単にプラスミドDNAを滴下するだけで効率的に遺伝子導入可能なこと、表皮成長因子による前処理や、投与後の臓器表面の摩擦により、遺伝子導入効率を改善できることを明らかにしていたが、何れにせよ、効率的な遺伝子発現を得るために開腹する必要があった。今回、開腹せずとも効率的に遺伝子導入可能な方法の開発に成功したので、特許を取得する準備を進めているところである。
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