平成21年度は、次の二点を明らかにした。 1) Gefitinb耐性肺腺がん細胞/Imatinib耐性白血病細胞株に対して、EGFR/BCR-ABL下流に存在するERK経路またはPI3 kinase/Akt経路遮断を行うことで、新規抗がん剤HDAC阻害剤の抗腫瘍活性を何十倍にも増強できることを明らかにした。また、そのアポトーシス誘導効果は、細胞内に蓄積する活性酸素種(ROS)によって媒介されていた。従って、各シグナル遮断薬とHDAC阻害剤との併用療法は、現在がん分子標的薬として臨床応用されるチロシンキナーゼ阻害剤抵抗性癌の画期的治療法となることが期待される。また、ERK経路またはPI3 kinase/Akt経路はG1→S期にいたる細胞周期回転を促進する中心シグナルであることから、あらためてHDAC阻害による分子ターゲットは、G1→S期に存在すると考えられた。 2) G1→S期制御の中心であるRB-E2F1経路に注目したところ、proapoptotic BH-3 only proteinであるBimの関与が明らかになった。すなわち、HDAC阻害によってE2F1が活性化されそのターゲット遺伝子であるBimの転写が促進され、さらにBimタンパク質を不安定化するERKによるリン酸化がERK経路遮断によって抑制されることによりBimの相乗的活性化がおこる。その結果、ミトコンドリア経路を介したROSの顕著な細胞内蓄積が誘導されることが併用メカニズムの一部を説明すると考えられた。現在更に、抗酸化酵素系にかかわる分子を詳細に検討している。
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