非小細胞肺癌治療薬であるエルロチニブは皮膚障害など特徴的な副作用があり、急性肺障害(ILD)は注意すべき副作用である。また、遅延性の肝機能障害が問題となりつつある。これまで得られた成果を元に副作用とエルロチニブの体内動態、遺伝子解析を実施し毒性との関連を検討した。非小細胞肺癌患者50名にエルロチニブ150mgを投与した。評価遺伝子は、CYP3A4、CYP3A5、CYPIA1、CYP1A2、CYP2D6とした。定常血中濃度の他に、投与初日と投与後1週間目のエルロチニブ血漿中濃度をHPLC法にて投与後24時間まで経時的に測定した。代謝物測定に、LC-MS/MS法を用いた。エルロチニブ投与初日におけるCYP3A5 6986AA患者及びAG/GG患者のCmaxは、それぞれ0.76±0.27μg/mL及び1.78士0.69μg/mLであり、AA患者はAG/GG患者と比較して有意に低い血漿中濃度を示した。定常状態のトラフ血漿中濃度は0.76±0.04μg/mLと1.54±0.80μg/mLであった。CYP3A5 6986 A alleleとCYP3A4*1Gは1例を除き全てリンクが確認された。一方、重篤で注意が必要な副作用として、劇症肝炎とILDがそれぞれ2例ずつ発症した。ILD発症症例においてエルロチニブ血漿中濃度の著しい上昇が認められた。一方、劇症肝炎発症症例において生体由来酸化代謝物が血漿中で検出された。 本研究を纏めるとエルロチニブ体内動態および毒性の発現を予測する方法としてABCB1、CYP3A遺伝子多型解析が期待される。また、肝機能障害予測マーカーとして新たに生体由来酸化代謝物が有望なバィオマーカーとなることが示された。今後、前向きに検証試験が必要と考えられる。本研究成果によりエルロチニブ治療を受ける患者において副作用を回避する個別化医療が実現されることが期待される。
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