研究概要 |
本研究では、抗がん剤に対する治療反応性の個体差解明をめざし、抗がん剤反応性に関わるタンパク質の解明とバイオマーカーとしての臨床応用および個別化治療の実現に向けた検討を行う。初年度である平成21年度は、研究者が平成19~20年度萌芽研究「抗癌剤感受背に関連するタンパク質(ペプチド)バイオマーカーの研究」において、ヒト大腸癌細胞より新規に見出した抗がん剤感受性関連タンパク質S100A10について、バイオマーカーとしての抗がん剤特異性と細胞内発現プロファイルについて検討した。 8種類のヒト大腸癌細胞(COLO320,DLD-1,HCT-15,HCT116,HT-29,LS174T,SW480,SW620)を用いて、S100A10およびその結合タンパク質であるannexin A2の細胞内タンパク質発現量をウエスタンブロット法により評価し、それらの発現プロファイルと白金系抗がん剤であるオキサリプラチン(L-OHP)および代謝拮抗剤である5-フルオロウラシル(5-FU)感受性との関連につき検討した。その結果、S100A10発現量はL-OHP感受性と有意な相関を示したが、5-FU感受性との間には有意な相関を認めなかった。また、これら8種類の大腸癌細胞におけるS100A10とannexin A2の発現量は強い相関を示した。以上のことから、S100A10はL-OHP感受性に関して特異的なマーカー候補タンパク質であることが示され、その機能は、結合タンパク質であるannexin A2も何らかの関わりを有する可能性が示唆された。 今後は、S100A10の抗がん剤感受性との関わりにつき機能解析を進めるとともに、保存血液検体、手術摘出組織などの臨床検体を用い、S100A10発現パターンと抗癌剤による治療効果および副作用等につき比較検討し、薬剤反応性診断マーカーとしての臨床応用に向けた検討を行う。
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