本研究では、抗がん剤反応性に関わるタンパク質の解明とバイオマーカーとしての臨床応用に向けた検討を行う。 平成21~22年度は、研究者がヒト大腸癌細胞より新規に見出したオキサリプラチン(L-OHP)感受性予測候補タンパク質S100A10がL-OHP感受性に特異的なマーカー候補タンパク質であること、S100A10タンパク質発現量は結合パートナーであるannexinA2発現量と相関し、その挙動に影響されること、L-OHP感受性に対して両者が何らかの形で関連する可能性を示した。さらにS100A10はL-OHP曝露により発現誘導される可能性も見出した。 最終年度(平成23年度)は、S100A10およびannexinA2のmRNA発現量に基づく解析と、臨床応用に向けた基礎的検討を行った。 1.S100A10mRNA発現に関する検討:11種類のヒト大腸がん細胞を用いてL-OHP感受性(IC50値)とS100A10mRNA発現量との関係を検討した結果、両者は相関性を示した。これはS100A10タンパク質発現量がL-OHP感受性と相関することを示すこれまでの結果を支持するものである。また、S100A10とannexinA2はmRNA発現量においても相関し、S100A10タンパク質発現量はmRNA発現量と相関した。RNAiを用いたannexinA2のノックダウン実験によりannexinA2のみならずS100A10発現量も著しく減少したこと(平成22年度)と合わせると、もともと細胞に発現しているS100A10とannexinA2の発現量はmRNAおよびタンパク質いずれも相関しており、annexinA2の量的変化(減少)が起きた場合にS100A10の安定性が影響を受けることが示された。 2.臨床応用に向けた基礎的検討:S100A10高発現細胞株(HT29およびDLD-1)の培養上清を濃縮しウエスタンブロット法により分析した結果、S100A10を検出した。これによりS100A10は細胞外に分泌され、血液などの細胞外液より検出できる可能性が示唆された。さらに慶應義塾大学医学部倫理委員会にて承認を得たヒト血液検体をsurface-enhanced laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometryにより分析した結果、S100A10とほぼ一致する11kDa付近にピークを検出した。 今後は、S100A10や関連タンパク質の安定発現株の作成により機能解析を進め、臨床応用に向けたS100A10ELISA測定法の確立を目指していく。
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