抗腫瘍薬耐性は、多くの悪性腫瘍を治療する際に非常に大きな障壁となっている。種々のキナーゼ経路は、様々な悪性腫瘍で異常な活性化が観察されており、また経路の異常な活性化は腫瘍の悪性度や抗腫瘍薬耐性機構と密接な関連があることが報告されているため、そのような経路は創薬ターゲットとして有効であると考えられている。しかし、各種のキナーゼ経路は正常細胞の増殖・生存などにも重要な役割を果たしているため、細胞機能の維持に必要な経路をも非選択的に抑制することは生体にとって有害となる可能性が考えられる。そこで本研究では、「抗腫瘍薬耐性機構と関わりの深い機能を選択的に抑制する」ことを目的として、抗腫瘍薬に耐性化したヒト腫瘍細胞で「薬剤耐性に関連する活性化経路の探索」と「過度に活性化した経路の抑制による耐性克服」を試みている。 急性骨髄性白血病の標準治療薬として使われているイダルビシンに耐性となった細胞での発現亢進が確認されているキナーゼ(GS3955、LCK)を抑制しうる核酸製剤(siRNA)を耐性細胞に導入し、標的とする遺伝子(GS3955、LCK)の発現が抑制されたことを確認した。さらに遺伝子発現の抑制度に応じて、イダルビシンに対する耐性が部分的に克服されることを薬剤感受性試験で確認した。酵素阻害のレベルでも耐性克服の程度を検討するため、承認されている分子標的薬および試薬として使用されている阻害剤を用いて、イダルビシン耐性細胞においてイダルビシンに対する耐性が克服されるかどうかも検討した。遺伝子発現レベルと同様に、酵素阻害のレベルでも耐性の克服が部分的であったので、他の耐性因子が関与している可能性を想定して、薬剤耐性白血病細胞と感受性細胞についての比較をより遺伝子数の多いマイクロアレイを用いて遺伝子発現のフロファイル解析を繰り返している。
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