研究概要 |
ソフトイオン化質量分析法を基盤とする内分泌・代謝疾患のメタボローム解析法を構築し、遺伝的素因や生活習慣などの要因が複雑に関係した疾患の診断、予防、そして治療法の開発を目的として今年度は以下の研究を行った。初めに、尿中抱合型テトラヒドロコルチコステロイド(THC)にフォーカスドしたメタボローム解析法を構築すべく、硫酸抱合型THC12種を標品として合成し、これらのESI/MS/MSにおいて生成する特徴的イオンを明らかにした。引き続き、脂質代謝異常症と関連して重要視される硫酸抱合型オキシステロールの体内動態解析法を確立すべく、7α-および7β-hydroxycholesterol 3-sulfateを標品として合成し、これまでに合成したcholesterol、7-ketocholesterol、24-、25-及び26-hydroxycholesterol及び5α,6α-epoxy-cholesterolの3-sulfateを含めたオキシステロールサルフェート8種のLC/ESI-MS/MSによる高感度測定法に検討を加えるとともに、本法によってヒト血清中にこれらサルフェートのみならず、数種の未知サルフェートの存在を示唆する結果を得た。さらに、これまでに明らかにした胆汁酸代謝と異常蛋白質に関する知見を基に、ラット胆汁中に排泄されるグルタチオン抱合体をLC/MS/MSによって明らかにした。また、薬物性肝障害の解毒薬として用いられるN-アセチルシステイン(NAC)の重水素標識体を合成し、これをラットに腹腔内投与すると、経口投与したヒト主要胆汁酸5種いずれもが、重水素標識NAC抱合体として胆汁中に排泄されることを実証した。これらの研究成果を基に、先に「肝・胆・消化機能改善薬」として考案したNAC抱合型ウルソデオキシコール酸(UDCA)の体内動態をラットを用いて追求し、静脈内に投与したUDCA-NACが、速やかに加水分解されてUDCAに変換された後、グリシン及びタウリン抱合体として血中に出現するばかりか、肝細胞質画分では3位水酸基が硫酸抱合を受けて3-サルフェートに変換されることも明らかにすることができ、UDCA-NACをプロドラッグとして開発してゆく上に有用な知見を得た。
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