研究概要 |
前年度までにPPARγ刺激薬のトログリタゾンの腎臓がん細胞株に対する抗腫瘍効果について、p38MAPK経路の重要性を見出し、創薬ターゲットの可能性を示したが、今年度はさらに内因性のPPARγ刺激物質である15-deoxy-Δ^<12,14>-prostaglandin J_2(15d-PGJ_2)の腎臓がん細胞株(ACHN、786-OおよびCaki-2)における抗腫瘍効果について検討した。その結果、トログリタゾンと同様にPPARγ非依存的に抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。さらにクロマチンの凝集、非選択的カスパーゼ阻害剤の影響およびカスパーゼ-3活性の検討から、カスパーゼ経路を介したアポトーシスを引き起こすことが示唆された。さらに詳細に作用機序を明らかにする目的で、MAPK経路の阻害剤で検討したところ、ACHN細胞においてはJNK-MAPK阻害剤で生存率は回復し、さらに15d-PGJ_2処理によりリン酸化JNKタンパクの発現量の増大も認めた。したがって、ACHN細胞ではJNK-MAPK経路が関与することが示唆された。また、786-O細胞においては15d-PGJ_2よりリン酸化Aktタンパクの発現量が低下すること、Akt阻害剤により15d-PGJ_2と同様の細胞死が認められることから、786-O細胞においてはPI3K/Akt経路が重要であることが示唆された。 さらに、15d-PGJ_2の作用機序における抗酸化剤の影響を検討したところ、SH基含有抗酸化剤でのみ生存率の回復が認められた。15d-PGJ_2はPPARγ以外にSH基を有するタンパクを修飾するという報告もあるため、これらSH基含有タンパク質が15d-PGJ_2による細胞死に関わっている可能性が考えられた。今後、これらのタンパク質の影響を検討することにより、腎臓がんの新たな創薬ターゲットの探索を実施する予定である。
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