研究概要 |
抗CD3抗体をマウス腹膜腔に投与し上皮細胞間リンパ球(IEL)を刺激すると、投与後30分で十二指腸および空腸の絨毛上皮細胞にDNA断片化が誘発される。この実験系を用いて、1)腸絨毛上皮細胞間に存在するIELは活性化されるのか、活性化されるとすれば活性化に伴って起こると考えられる形態学的変化は確認できるか、2)T細胞抗原受容体関連抗原の発現は変化するか、3)活性化されたIELはどのような転帰をたどるのかを調べるために、IELの形態変化の観察(光学および電子顕微鏡)を行い、さらにT細胞マーカー(CD3,TCRαβ,TCRγδおよびCD8α)の発現の変化を免疫染色で確認した。さらに、IELを組織学的定義にしたがって同定、計数し、IEL数およびフェノタイプ別のIELの変化を調べた。その結果、1)抗CD3抗体によってIELは刺激を受け、その変化が形態学的に確認できた(1)IELと絨毛上皮細胞との間に間隙が生じる(細胞の縮小化)(2)IELは脱顆粒を起こし間隙に放出された顆粒が電顕的に観察できる(Granzyme Bが間隙に放出されることを免疫電顕で確認) 2)抗CD3抗体がIELのTCR-CD3複合体結合を介してIEL活性化がおこる(1)CD3,TCRγδおよびTCRαβの発現が抗CD3抗体投与60分後以降低下する3)刺激を受けたIELは死の転帰をたどる(1)刺激後、時間経過と共にIEL自身が縮小する(細胞核の強い凝縮化)(2)IEL自身からCD3,TCRγδおよびTCRαβの染色性が消失する(3)刺激72時間後にはほとんどすべてのIELが絨毛上皮組織から消失した以上の結果より、生体防御の最前線に存在するIELは、「易被刺激性」で、刺激を受けると周囲の絨毛上皮細胞に影響を与え、絨毛上皮内で細胞死を起こし消滅するという、「その場限り的」で「使い捨て的」な存在であることが明らかとなった。
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