これまでの一連の膜骨格プロテイン4.1ファミリー蛋白の研究中に見出してきた、マウス末梢神経系のシュワン細胞が形成する髄鞘内のシュミット・ランターマン切痕(SLI)における膜骨格蛋白であるプロテイン4.1Gが形成する膜骨格蛋白複合体について、本年度は詳細に解析した。結論として、マウス末梢神経系において、4.1Gはシグナル蛋白MPP6と接着分子CADM4と結合するという、新規の蛋白複合体を見出すことができた。MPP6は、細胞骨格の輸送蛋白や微小管ともかかわるシグナル蛋白と考えられているが、作製した4.1G欠損マウス坐骨神経ではこの蛋白発現量は激減しており、4.1GがMPP6のSLIへの局在化と同時に蛋白産生を制御する役割があることが考えられた。またもう一つの複合体蛋白として同定したCADM4は、細胞膜内にある接着分子であり4.1G欠損マウス坐骨神経でSLIへの局在が消失していることより、CADM4を膜内輸送し局在化させる役割を4.1Gが担っていることが明らかとなった。さらに4/1G欠損マウスの表現型として、高月齢の4.1G欠損マウス坐骨神経におけるSLIの円錐台の高さは、野生型と比較して優位に減少していていたことより、4.1G蛋白複合体がSLIの形態形成に関与することがわかった。この形態変化による機能変化については、伸展などストレスへの耐性などの実験系を今後確立して解析する必要があるが、赤血球において4.1Gのファミリー蛋白である4.1Rが欠損すると溶血性貧血という浸透圧ストレスに対して脆弱な赤血球に変化することを考慮すると、今回見出した4.1G-MPP6-CADM4複合体が、末梢神経系における外力に対する分子機構であることが示唆される。このことは今後、この機構の破綻が末梢神経疾患の病態として説明のひとつとなる可能性がある。
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