研究課題
脂肪酸結合タンパク(FABP)分子ファミリーは、脂肪酸の細胞内標的部位への輸送を介して、様々な細胞機能を発揮する。本研究では、FABP分子の新規の細胞機能について検証するとともに、その作用機序について、主に細胞内シグナル伝達系の制御と、エイコサノイドの産生および活性の制御、の観点から検討を行った。研究成果とその意義について以下に示す。1.FABP5(表皮型FABP)が、リノール酸代謝産物である13-HODEの合成系を制御することにより、13-HODEによるNFkBシグナルの活性制御を介して、ケラチノサイトの早期分化に関与することを明らかにした。これにより、FABP5を標的にしたヒト乾癬病態への診断および治療的アプローチに対する新たな端緒が開かれた。2.FABP7(脳型FABP)が、成熟期マウス大脳皮質のオリゴデンドロサイト前駆細胞およびアストロサイトに局在し、アストロサイトの分裂制御を介して、神経外傷時のグリア瘢痕形成に関与することを明らかにした。これによりFABP7を標的にしたグリア瘢痕制御および種々の神経疾患治療への新たな展開が示された。3.FABP4(脂肪細胞型FABP)とFABP5が、胸腺の支持細胞である胸腺上皮細胞に異なる局在パターンを示し、さらにFABP4は胸腺のリンパ球選択に重要な胸腺ナース細胞に特異的に発現することが明らかとなった。またFABP4およびFABP5が、胸腺上皮細胞が産生するサイトカインIL-7の産生に関与する可能性があることを明らかにした。胸腺上皮細胞における脂質代謝の意義については未だ不明であり、Tリンパ球成熟過程への新たな分子基盤を提示した。4.FABP5が皮脂腺に非常に高い局在を示し、皮脂腺細胞の分化およびホロクリン分泌過程に関与することを明らかにした。さらにFABP5ノックアウトマウス由来の皮脂成分は、野生型に比べて脂質構成に変化があることを突き止めた。これらの結果は、FABP5が、皮脂腺細胞の分化や、皮脂の分泌制御を介して、皮膚の保湿や皮脂が持つ抗菌作用などに関与する可能性を示すものである。
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