造血現象は造血幹細胞という種が、造血微小環境という畑において育つ過程を示すものであり、種、畑いずれの欠陥も結果的に貧血等の原因となる。造血微小環境は、造血幹細胞をとりまくように存在する「ストローマ細胞」と総称される間質系細胞より構成される。本研究では、生体内造血組織におけるこれら細胞の存在様式、また実際に造血幹細胞の増殖、分化にどのような関わりを持って機能しているかについて、Senescence-accelerated mice(SAM)を用いて検討を行った。SAMは若年期には正常の造血を認めるが(non-stromal cell impairment mice : non-SCI)、30週齢以降加齢と共に貧血等の血液学的異常所見を呈することが知られている(stromal cell impairment mice : SCI)。両者を比較検討した結果、恒常的造血ではSCIの骨髄造血細胞数は保持されていたが、脾臓においては造血細胞数の減少がコロニー形成法により観察された。ストローマ細胞を認識するPA-6抗体を用いた組織学的検討で、ストローマ細胞は骨髄中では骨梁周囲に密に存在し、抗サイトカイン抗体を用いた二重染色で、SCIでは特にflurouracil(5FU)あるいは炎症性物質であるneopterin投与後の造血亢進状態において、ストローマ細胞の増殖性および造血因子産生能がnon-SCIに比較して有意に低下していることが観察された。このSCI由来ストローマ細胞の造血因子産生機能低下は、分離したストローマ細胞のin vitro培養系でも遺伝子発現および蛋白合成の両面で低下が確認された。これら結果は造血微小環境の構成要素であるストローマ細胞機能の造血反応における重要性を強く示唆するものであり、その障害が血球産生異常に関与していることが明らかとなった。
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