消化管の一番内側を覆っている粘膜上皮は、常に外部環境と接しており摂取した栄養素を効率よく吸収すると共に生体にとって有害な物質や細菌が体内に侵入しないように働いている。そのため、粘膜には腸管神経、腸内分泌細胞および腸管免疫系の3種類の外部環境をモニターするセンサー装置が備わっている。本研究では、このような受容体発現細胞の消化管諸機能に及ぼす影響について、昨年度は、生理反応の空間的基盤を明らかにするために各種の化学物質受容細胞の同定に用いられる分子マーカーを用いて分子生物学的手法並びに免疫組織化学的手法を併用して、どのようなタイプの粘膜上皮細胞あるいは腸管神経系に上述の化学物質受容体が発現しているのかを明らかにすることを試みた。その結果、ある種の食物繊維を摂取させると、腸内分泌細胞の中でも特にL型腸内分泌細胞の密度が増加することを明らかにした。また、この密度の増大は消化管の部位によっても異なることを見出した。それに引き続き、本年度は大腸粘膜イオン輸送に及ぼす苦味受容体アゴニストの影響について検討を加えた。 まず、ヒト及びラット大腸粘膜を剥離し、複数のT2RがmRNAレベルで発現していることを確認した。次に短絡電流法を用い、苦味物質6-n-propyl-2-thiouracil(6-PTU)によるイオン輸送の変化を解析した。大腸における苦味受容体を介したイオン輸送の変化は、腸管神経系を介さず、PGとの相互作用による水分泌(下痢)に関与している可能性が示唆された。さらに、6-PTUへの応答は、PG合成酵素のうち恒常的に発現しているCOX-1ではなく、炎症時に発現が誘導されると考えられているCOX-2サブタイプに特異的に依存している可能性が見出された。
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