本研究の目的は、腸管においてタイト結合部を介する血液側からのNa+の供給が、Na+依存性栄養素吸収を支えていることを明らかにすることである。その為、タイト結合部タンパク質の一種、クロージン-15が欠損しているマウス(このマウスでは腸管の陽イオン透過性が低下していることが既に明らかになっている)を利用し、欠損マウスでの糖質消化吸収の動態を、in vivoの栄養実験で検討してきた。これまで、クロージン-15欠損マウスでは、大きな栄養障害はないものの、小腸が肥大(megaintestine)していること、管腔内のNa+濃度が低下していること、などが明らかになっている。今回は特に非吸収性マーカーの^<14>C-polyethylene glycolを餌と同時投与することにより、より詳細な検討を行った。さらに大腸におけるイオン・水吸収の変化の有無も検討した。その結果、クロージン-15欠損マウスでは野生型に比べ小腸前半部の内容物量が多く、また通過時間が遅くなっていた。さらに、小腸前半部に高濃度に存在することの知られている管腔内のグルコース濃度に関しては、その最大濃度は大きく変わらないものの、野生型に比べ高濃度の部位がやや肛門側まで広がっていた。大腸においては、クロージン-15欠損マウスで内容物のNa+濃度が低下していたが、遠位部結腸での水分含量の低下は野生型と比べて大きな差はなく、水分吸収は落ちていないことが示唆された。以上の結果より、クロージン-15欠損マウスでは、栄養吸収の効率の低下が組織の肥大で補われているのみならず、内容物の流れを緩やかにすることによっても補われていることが示唆された。又、大腸での水分吸収に関しても、大腸では肥大が観られないことから、管腔内Na+濃度低下から予想される効率低下が肥大とは別の何らかの機序で補われていることが示唆された。
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